組織のジレンマ
組織の中で起こる問題は、すべて組織の中にあるジレンマが原因である。
問題を起こすのは、すべて人の行動である。
これらは、TOC(制約の理論)での教えだ。
組織は、トップの大きな方針で運営される。
そして、トップ方針のもと、各組織はそれぞれの部門方針を決め、評価基準を設定する。
評価基準は、個々の人事考課に直結し、組織の中で個人が評価されるもとになるので、組織人としては、この評価基準に基づいて行動するのが当然となる。
ところが、この評価基準は、通常は複数(多数)設定されて、場合によってはそれぞれの間でジレンマを抱えることがある。
例えば、トップ方針が収益をアップする、ということにすると、その方針に従うと、ひとつの評価基準は売上向上となり、もう一つが例えばコストを下げる、ということになったとする。
売上を上げる行動として、在庫を増やして顧客要求にいつでも対応出来るようにする、ということと、コストを下げるために在庫を減らすという行動は、完全に対立する。
つまり、同じ大方針のもとで作られた2つの評価基準が、まったく異なる行動を要求することになるわけだ。
これが、組織の中の制約条件になる。
こんなことは実は組織内にたくさんある。
製造業で良くあるのは、QCD(品質、コスト、納期)目標を必達せよ、という大方針だ。
一見すると当たり前のことのように思えるが、Q、C、Dの間でジレンマが発生することは大いにありうることだ。
最近、多発する様々な企業でのデータ改ざん事件は、ほとんどの場合、このQCDの間のジレンマが原因である。
特にQとDの間、またはQとCの間のジレンマによって、データ改ざんが行われる。
なぜかいつもQ(品質)が犠牲になる。
C(コスト)やD(納期)は、はっきりしていて、トップに対してだけでなく市場に対しても嘘がつけない。
さらに、ミドルマネージャにとって、自身を評価してもらうのに、もっともアピールしやすい指標だ。
品質は、もちろんデータ化できるのであれば、数字で表されで明確なはずだが、この数字が市場で出回るわけではない。
さらに、データの意味が市場ではっきり理解されているわけではなく、さらには企業内においてもデータの意味が明確に理解されていない場合もある。
歴史的に作り上げてきた品質基準が、数字や測定方法だけが継承されてきて、数字の意味やモラルまでが継承されていないケースも多数ある。
コストや納期のようにはっきりしない品質基準のために、コストや納期が遅れそうになると、トップや市場からプレッシャーのかかる現場は、時として勝手な判断で品質基準を捻じ曲げてしまうことが起こってしまうのだ。
ミドルマネージャは、多少の解釈の変更は実際の品質にも問題がないだろうと勝手な解釈に走るわけだが、それは、自分の評価を悪くしないという理由が大きい。
トップとしても、決して自分で改ざんを指示していなくとも、QCDのバランスと多少ゆがめても、収益拡大という最大の方針を優先させてしまう。
まさに構造的な問題であって、本質的な問題に手を打たない限り、同様の問題は繰り返されるだろう。
組織の中に悪人はいない。
組織のジレンマを捉えて、本質を見よう。
また、自分の評価だけを考えるマネージャにならないよう、本質を見抜く力を強化し続けることが、技術者に求められることだ。
TOC(制約に理論)は、この組織のジレンマを見抜く力をしえてくれる。
質問力を磨くと影響力がアップする
エンジニアにとってだけではなく、企業人というか組織人であれば”質問力”は大きな力を発揮する。
会議で説明を受けたり、セミナーで講習を聞いたりした後に質問をするには、実はよく聞いていないと、しっかりとした質問は出来ないものだ。
傍から見ていて、するどい質問をする人は仕事が出来る人に見えたりもする。
会議の場の説明もセミナーでの講習も、その目的は、何かを伝えたい人と伝えられたことを活用したい人とのコミュニケーションであり、情報のマッチングの場なのだ。
コミュニケーションの場である限り、それは建設的なものである方が好ましい。
話し手から見ると、その話は誰かに何かを伝えるためのものである。もちろん、聞き手にとってプラスになることを願いながら話すのだ。
そして、聞き手はその伝えられようとすることを自分の中で活かせるのかどうかを判断しながら聞く。そして活用できそうなのであれば、本気で活用することを考える。
最終的には聞き手の目的を満足させられるかどうかが、最大のポイントになるのだが、このとき、聞き手側の質問力がこのコミュニケーションの成否のカギを握る。
まあ、元の話が支離滅裂だったり、理解しづらい話であったり、そもそも何を話そうとしたのかを質問せざるを得ないような場合は論外だ。元の話がある程度の品質であることを前提にしている。
一生懸命に報告書を作って偉い人に報告したら、ケチョンケチョンになって帰ってくるケースは、そもそも何のために報告してんだ、みたいなことも多く、これはこれで立場によって見ている景色、目的レベルの差があって話がかみ合わないことを示しているかもしれない。
これもある意味では、もっと視野を広げろとか、目的意識をしっかり持てというアドバイスなのだが、このケースは今回の話からは除外する。
”質問”とは、話し手の意図や話の本質を突き止めて、それを自分に役立てるための知識にするための手段である。
細かい所が気になることもあるし、挙げ足を取ってみたくなることもある。それも質問として必要なこともあるが、細かいことだけに終始しないことだ。
大きな目的、その話の目指すところ、そして自分としての大きな目的を常に念頭において、なぜなぜを自分と相手にぶつけるのだ。相手の話と、自分の目的のギャップを埋めて行って自分で使えるようにすることが大切だ。場合によっては、話し手側が気づかなかったことを気づかせてあげることにもなり、建設的なコミュニケーションとなる。
私が行っている研修の中で、最近買ったもの(一万円以上の比較的高価なもの)について、二人でペアになって相手がその購入品をなぜ買ったかを聞き出す演習を行っている。
ある人は、買いたいと思い始めてから長い間悩んで決断するケースもあるし、ある人は奥さんから背中を押されて決断する。衝動買いするという人もいるが、この研修の場合は、いくらかの悩みや葛藤のあとに購入したものを選んでもらう。
買った方がいいかもしれないと思い始めたきっかけ、徐々に心が動いていく段階、買うべき候補を探し出す瞬間、決定基準がなんとなく決められていく段階、など、過去を振り返ってもらって真の購買動機にたどり着いてもらうための質問をしていく練習だ。
実は人間が何かを買うということには、いろんな購買動機があって、様々な葛藤や周囲の人たちの何気ない影響を受けている場合が多い。ただ、時間が過ぎ去ってみると、思い出せないことも増えていく。
エンジニアのためのマーケティング思考力の演習なのだが、実はなかなか購入者の真実にはたどり着けないケースが多い。
15分くらいずつの時間で聞き取ってもらって、相手の購買動機を聞き手が他の人にも説明する。他の参加者が、説明の後に聞き手に対して購入者の購買動機について追加質問をすると、それは聞きませんでした、という答えがたくさん返ってくる。
さらに、質疑後、購入した人に対して、言いたいことは全部聞かれて、それを言いきることが出来ましたか?と聞くと、実は、xxxのことを言いたかったんです、となる。
聞き出すというのは頭を使うことでもある。直接的に聞きたいことをリストアップして順番に聞いていけばいいということではない。話し手側の記憶や考えを刺激することによって、心の奥深くにある本当の答えを話せるようにしてあげることも重要だ。
研修では、スマホの購入を題材にする人が多い。故障したこときかっけに購入した。二年縛りのタイミングだった。子供が進学したのを機に家族で購入した。など、様々な理由がある。
ただ、自分にも経験があるが、ひとつの大きな理由が考え始めのきかっけではあるものの、その後、実は色んなことを考え始めるのだ。
iOSにするかAndroidか?誰々さんと誰々さんは最新のXXを持ってるし、YYさんはアレを使っている。ZZさんは機種Aについてこんなことを言ってたっけ。格安スマホってどうなんだろう?Kさんが使ってたあのアプリは便利そうだった。電子マネーは?ウォッチとの連携は?これまで溜めてきた大手キャリアのポイントはどうなる?家族はどう思っているか?
などなど、実は時系列でいろいろと考えながら、自分なりにひとつひとつに決着したり、先送りしたりしながら、決定基準を探していたのだ。奥さんの意見をどう扱うかなどもあるかもしれない。
演習の初めに、スマホの購入動機というお題を与えられたときは、大きな理由しか思い出さないかもしれないが、質問者からの質問によっては色んな葛藤が呼び起こされることもある。
実際のマーケティングでは、こういう購入に至る奥深い思考のストーリーが重要なのだ。
優秀な営業マンは実に話がうまい。上手に話をしながら何気に重要な情報を聞き出している。
最初の話に戻ると、会議やセミナーの場でも同じことだ。表面的な質問には表面的な答えしか返ってこない。
しかし、相手の思考を刺激して、双方にメリットのある建設的な質問によって、自分自身が相手からの情報をしっかりと消化するだけでなく、話し手や周囲の人にも影響を及ぼす情報に進化させることができる。
会議で声が大きいやつが、対して実力もないのに出世する、なんて思っている人もいるかもしれない。声の大きい奴は確かに目立つ。
でも、もしかすると、声だけが大きいのではなく、質問が上手なのかもしれない。
報告書でケチョンケチョンにした上司。実は物事の本質を見抜く力、質問力でやはり普通の人たちよりも上手なのかもしれない。
会議での発言、つまり”質問力”を見くびってはいけない。会社での周囲への影響力を高め、重要な仕事を任されるためには、どうしても必要な能力だと思う。
参考:
自慢する文化を作ってA3報告書を書く
グローバリング(株)の稲垣社長と協業しながら、企業向けの製品革新コンサルをやる中で、トヨタ式として知られている「A3報告書」の文化を作ることを指導している。
A3報告書は、トヨタで使われているということで有名だが、実は1970年代、80年代にTQCが日本で流行ったころは、多くの企業で採用されていた。
問題解決や提案などを、必ず一枚のA3にすべてを書ききる形で、一枚にまとめるため、無駄なことを省き、読み手がわかりやすいように、起承転結をしっかりとさせて、ストーリーのように書くことで、自分自身の考えもしっかりとまとまり、何よりも上層部の方に短時間で誤解なく理解いただけるというものだ。
ところが、最近我々が目の当たりにするのは、メーカー企業でも報告書の質が大きく低下していることである。
私が会社に入ったころは、技術者の仕事は、
- 図面を書くこと
- 報告書を書くこと
- アイデアを出すこと(特許など)
だと教えられた。
このうち、報告書を書くことが、技術者の仕事から優先度が大きく下がっているようだ。
ひどい例では、社内の報告にパワーポイントを多用している場合だ。
パワーポイントは、好きな枚数を使って、好きなことを好きなだけ書けると思っているのかもしれない。
私も、上司としてパワーポイントでの報告を受けることがあったが、報告を聞いている途中で何を言いたいかがわからなくなり、「あと何枚説明するつもりだ?」と嫌味を言ったことが何度かある。
パワーポイントの報告を禁止しようとしたこともあったが、大きな組織で、全体の賛同が得られなかった。
A3報告書は、自身の理解を深めさせる、上司への報告を簡潔化させ、かつ誤解を最小にする効果があるが、それ以外にも、本人の論理思考力を向上させる効果があることと、実は一番大事なのは、組織内のコミュニケーションを活性化させるのだ。
A3報告書、あるいはA3マネージメントといったほうがいいかもしれないが、これは書き手が書いたらおしまいではなく、書いたときから、その報告書を使って上司とのコミュニケーションが始まるのだ。
上司と内容やストーリー、不足していること、方向性が違っていないかなどをQ&Aのキャッチボールをしながら、報告書をブラッシュアップしていくのだ。
さらに、上司以外の仲間などとも共有し、さらにいいものにしていく中で、仕事の進め方、方針などについて議論を深め、皆が同じ方向を向くように仕向けていく。場合によっては、そのコミュニケーションから新たなアイデアも生まれる。
それが、A3マネージメントであり、A3文化なのだ。
この文化を作っていくには、トップマネージメントの強力な後押しが必要だ。
今、改革を進めている企業では、トップから強力なお墨付きをいただいてA3文化作りを進めている。
しかし、それでも、まだ越えなければならない壁がある。
仕事のやり方、つまりプロセスも変えなければならなかもしれない。
そもそも、報告書を書く優先度が下がっているのは、図面やソフトウェアのコードを書く、つまり設計作業が何よりも優先し、かつ、その次は日々の雑多な仕事、根回しや会議などで忙殺され、報告書を書く時間がないというのが原因になっているからだ。
報告書を書くのは時間もかかるし面倒だ。口で言えば済むではないか、というのが、多くのベテランの意見のようだ。
このままでは、組織内の暗黙知が埋もれていく。若手が伸び悩む。そして、企業内のコミュニケーションが希薄になり、新しいコンセプトが生まれない、つまらない会社になっていってしまう。
危機感を持ってほしい。
さて、ひとつ秘策がある。
自分の若いころを思い出してみた。
忙しい中にも、自分で好きなことをやっているという気持ちも持てていたので、忙しさは苦にはなっていなかった。
そして、自分で考えて、自分でチャレンジしてみた実験結果やアイデア検証については、やった後に、早く誰かに報告したいという気持ちが芽生え、早く、しかも上手に報告書を書きたいと思っていたことを思い出した。
直属の上司だけではなく、他の組織の人や同期の仲間などにも、自慢したかったのかもしれない。
そうだ。「自慢」する文化を作ればいいのだ。
自慢する、つまり自分の仕事が大好きで、そして誇りを持てる。これ、ものすごく大事なことだ。
そのために、まず、好きなことをやらせる時間を少しずつでも作ることだ。
いくつかの企業で取り入れているのは、20%ルールなどと名付けて、業務時間の20%は、通常業務以外の自分の好きなこと(いずれ会社の役に立つなどの縛りは必要だが)をやるというものだ。
私もこれを進めたことがある。ただ、今まで長い間、与えられた仕事しかしてこなかった向きには、何をやったらいか迷うケースもある。
何人か選んで、多くの人が興味を持てそうなテーマをピックアップして、リーダーを立て、この指とまれ方式で、まず、業務から離れること、好きなことを見つけるという習慣を身につけさせる必要もあるかもしれない。
人に自慢したくなる報告書、これがキーワードだ。
そして、定期的に自慢大会をやって、トップがご褒美を出してもいい。
文化を変える、それも大きく変えることは、意外に小さな行動から始まるかもしれない。
「稼げる」エンジニアとは?
エンジニアが「稼ぐ」とはどういう意味か?
誰だってお金は欲しい。
サラリーマンであっても、できるだけたくさん給料が欲しいと思っているはず。
しかし、いくら欲しいかと聞かれると答えに困ってしまわないだろうか。
周りの人よりも少し多めがいいとか、もしかするとその程度の願望か。
エンジニアとは、ある意味、特殊な才能を持った(持っているはずの)言わばタレントだ。
でも、貪欲に稼ごうとするエンジニアをあまり見たことがない。
もちろん、大儲けしたい、ビッグになりたいと起業する人も日本でも増えてきているが、サラリーマン・エンジニアを見ている限りは、平均的な状況に満足とは言わないまでも、あえてそこから状況を変えようとはしていない。
極論すると「稼ごう」としていない、と言えるかもしれない。
一方、エンジニアを雇っている企業の経営者からみると、エンジニアは企業に利益をもたらす大切な人材だ。
だから、少なくともエンジニアは稼いでいる。
しかし、たくさん稼げるエンジニアとそんなに稼いでいないエンジニアはいる。
そう、簡単な話で、稼げる人も稼げない人も、それなりの給料がもらえるように、均等に利益を配分している。
もちろん、貢献度の違いを査定して昇給や賞与で差をつけるが、稼げるエンジニアがその稼ぎに見合った給料をもらえることはない。
これが資本主義と言えばそれまでだが、その資本主義という制約を百歩譲って認めた上で、それでも最終的に自分の給料を上げるにはどうしたらいいか、これを考えてみよう。
サラリーマンの給料を上げる方法
いずれ独立したいという考えは、ここでは置いておいて、サラリーマン・エンジニアを続ける前提で、どうやって高い給料をもらえるようになるか、これは3つの方法があると思っている。
- 高い地位に就くこと
- 高い給料をもらえる会社に転職すること
- 会社の業績を上げること
当たり前のことだ。
これらについて、一人一人のエンジニアが貪欲に、そして戦略的に取り組んでいれば、もしかすると3の会社の業績は顕著に上がって、企業全体の平均給与が大幅に上がるのかもしれない。
現実にはそうはいかない。なぜだろう?!
もちろん、全員が高い地位には就けない。つまりポストは限られていて、企業内競争があるということもある。
でも私は、2と3のやり方を変えることができれば、世の中は大きく変わるように思う。
2は、決してネガティブに捉える必要はない。
転職するエンジニアが増えることは、社会にとってプラスだと思う。
今の日本の終身雇用制度は、日本企業の甘えを増長させると思っている。
個人が強くなることで、会社と個人の契約関係をもっと対等に近い契約関係に変えていくことで、企業はもっと社員と真摯に向き合うようになる。
もちろん個人も、他社から高い給料でオファーをもらうためには、世の中で通用する技術力なり、ビジネス力なり、何らかの強味を持ってそれをアピールできなければならない。
そう、これがエンジニアの一つ目の「稼ぐ」力だ。
エンジニアが稼ぐためには、個人力を伸ばし続ける。戦略的に自分の強味を作り、強化していかなければならない。
しかし、忙しいエンジニアは、この戦略的な自己強化が出来ていないのではないだろうか。
「忙しすぎる。」
これも、もしかすると言い訳になってしまう場合もある。
「自分のやりたいこと」と「自分が出来ること」、そして「伸ばしていきたいこと」が一致しているエンジニアは意外と少ない。
忙しいのと同時に、今の仕事をやりながらその中で自分を伸ばすことに熱意が持てていないのかもしれない。
私は、自分の「棚卸し」を定期的にすることを勧めている。
自分のことは、意外に自分では見えないものだ。
「何がやりたいのか」「何ができるのか」そして、「それをやることで、自分にどんな得があるのか」つまり、この道で本当に稼げるようになるのかを、常に考えて欲しいと思っている。
さらに言うと、多くの人が、自分をどうやって伸ばすのか、どうしたら効果的に自分を強化できるのかを知らない。
一生懸命仕事をする、たくさんの情報をインプットする、とにかく出来ること、好きなことを一生懸命やれば、きっと結果はついてくるだろう、という感じなのではないか。
単純なことだが、まず自分の実力、現状を客観的に的確に把握することがとても大事で(As-Is分析)、次に、自分がどうなりたいか、どのくらい、どうやって稼ぎたいかという目標設定も同様に重要だ(To-Be設定)。
そして、この現状と目標のギャップをどうやって効果的に埋めて行くかが、エンジニアが持つべき戦略となる。
若いエンジニアと話をすると、自分はとにかく技術を伸ばしたい、と言い、マネージメントには興味がない、とい言うケースがとても多いように感じる。
冒頭の3つの稼ぐ方法の一番目を、この時点で放棄しているように見える。
そしてこの考えは、単にこの一番目を放棄しているだけでなく、実は2と3に対しても大きなマイナスになっているのだ。
高い地位に就く、他社で通用する、そして今の企業の業績を上げる、このどれも、一人一人の技術力アップだけでは達成できないのだ。
戦略的に勉強しよう
本はできるだけたくさん読むのがいいだろうと思う。
いい本もあれば、そうでもないものもある。たくさん読んで、いいものから必要なものを吸収すればいい。
ただ、これは頭に入れてほしい。同じ本を読んでも、何をどれだけ吸収できるかは、人によって非常に大きな差があるということだ。
「読書」を否定しない。でも何をどう学びたいか、その学びを体に染みつけるために何をやるかは知っておいた方がいい。
目標設定は非常に重要だ。
ハーバード大学の調査で、大学在籍中に人生の目標を持っていなかった人は、全体の84%で、この人たちの年収を”1”とすると、目標を立てていた人の年収はその2倍、さらに、目標を紙に書いていた人の年収は、10倍だそうだ。
人生の目標を絶対に立てよう。
そして、その目標に、自分自身の「稼ぎ」を意識しよう。
さらに、その目標、稼ぎの先にある社会への貢献など、人生の目的を入れよう。
できるだけ、志高く目的を設定すると、人生は楽しくなるものだ。
今、所属する企業の収益を上げる、という目的はまだまだ小さいかもしれない。
日本企業全体を強くするとか、日本中の体の不自由な人に少しでも楽で生きがいのある生活環境を作るとか、できるだけ大きな目標を立てよう。
その下の階層に、その目的を達成する指標として、まずは今の会社の収益を上げるとすると、人生はこれまで以上に生き生きしてくるはずだ。
そしてこれがエンジニアの二つ目の「稼ぐ」力だ。
志高い目的と目標を立てることが出来ると、そこに到達するためには、具体的に自分がどう変わらなければならないかが見えてくる。
技術力はエンジニアにとって第一優先かもしれないが、その技術力や優れた技術で日本を、あるいは世界を変えるためには、他人を巻き込んで実現する”力”が必要だ。
私が多くのエンジニアに不足していると思うのは、”国語力”だ。
国語力というと漠然としているので、もう少し具体的に見ると、
”本質”を読み解く力だ。
”抽象度”をレベルを変えて物事を見力だ。
顧客の立場で顧客を語る”ストーリー力”だ。
シンプルに的確にそして迅速に物事を読みとく”論理思考力”だ。
なぜなぜを繰り返して、真実に迫る”質問力”だ。
私はこの5つの力をエンジニアの基礎脳力として身につけてほしいと思っている。
この力を身につけると、会社の中で起こっていること、世の中で起こっていることを客観的に的確にそしてシンプルに捉えることができる。
報告書を一所懸命に作って上司に持っていくと、想定外の質問や指摘を受けて、打ちのめされてかえって来るという経験はないだろうか?
上司は、人の悪いところを指摘すればいいんだなんて、恨めしく思う前に、自分の見てる視点の狭さを反省すべきだ。
これは立場が与えてくれる場合もあるが、訓練で強く出来る。
論理思考力、本質力、抽象化力、ストーリー力、質問力をつけながら、技術レベルだけでなく、仕事をこなす、そして最終的に「稼ぐ」力を身につける勉強を戦略的にしてほしい。
私が目指す、エンジニアが自身の力とネットワークで強くなるための仕掛けは、この5つの力を身につけるところから始めたいと思っている。
人生100年時代、シニア活用の道
人生100年時代、60才定年はもはや時代に合わない。
かといって、ベテランが幅を利かせすぎると若い人が伸びるチャンスを圧迫する。
企業も、片方では人手不足を抱えながら、もう一方では人件費を適正に抑え、人材の新陳代謝を維持しなければならない。
今、多くの企業が「働き方改革」なるものに挑んでいて、女性活用やシニア活用ということもひとつのテーマになっているようだ。
しかし、掛け声とは裏腹に、政府の制度も形ばかりが議論され実体がないし、企業側も裏腹の事情がたくさんありすぎて、すんなりは進まない。
しくみや制度を待ってはいられない。
個人として、人生100年時代の人生設計をしなければならない。
簡単なことだ。自分で一歩を踏み出せばいい。
KDDI総研がまとめたレポート「人生100年時代の働き方戦略」によると、定年を迎えると、51.5%が再雇用で同じ会社に継続勤務し、29.2%はいったん無職になるというデータがある。
起業、その他自分で仕事をする人の割合は、わずか3.8%だそうだ。
私自身は、大企業に勤めていたときに、オープンイノベーションを進める組織で、ベンチャー企業にお金だけでなく、人的な投資をするしくみとしてシニア活用を考えたことがある。
そのときのひとつの肝は、30年近く一つの会社で働いていたベテランをベンチャーや外部の会社に出せるかということであった。
再教育というか、起業家魂や会社経営、運営について、少しトレーニングをしてから出すようなことを考えて、「おっさん再生プログラム」という名前を付けて活動してみたことがある。
ベンチャーキャピタルの社長さんなども賛同してくれたが、企業側の人事は腰が重い。企業の経営層は、反対する理由もないが、特に積極的な支援はしない。
そうこうしているうちに、私自身が定年退職を迎え、私の意志を引き継ぐ人材も、組織としての後押しもなく、この「おっさん再生プログラム」は頓挫することになる。
実は、裏話をすると、私はこのプログラムで、一人のシニアをベンチャーに送り出すことに成功したことと、何を隠そう、私自身の起業後のクライアントをこのプログラムをやりながら獲得することができたのだ。
私は、開発部門の責任者などをしていたが、58才半年で役職を返上することになった。
もともといずれ自分で起業することは決めていたものの、重い仕事を任せていただいている間は、精一杯仕事をした。
でも、役職返上でスイッチを入れ直して、失礼ながらしたたかに、仕事はそこそこに、起業準備をメインで1年半を過ごした。その結果、定年退職日の3か月前に会社を設立し、シームレスにサラリーマンから起業家へのシフトをすることができた。
前述の「おっさん再生プログラム」も、もちろん会社のため、会社であまり幸せでないシニアのため、ということで進めていたのだが、かなりの部分は自分の起業後を見据えたことでもあった。
果たして、会社はこのプログラムの継続しないとなったので、今、考えているのは、そろそろ時効なので、私がこれを自分の会社の仕事として再開することだ。
日本人は正義感が強いが、私はこれからもしたたかに生きたいし、多くのシニア、シニア予備軍の人たちにも同様にしたたかに人生を考えてほしいと思っている。
私の人生の主たる目的は、若いエンジニアの育成を支援し、日本の製造業を再び強く蘇らせることだ。
しかし、その目的のため、シニアの力を借りたい。
シニアの暗黙知を引き出して、その知識、技術、経験を若い人につなげるプラットフォームを創りたいと思っている。
賛同者がいれば募りたい。
admin@futureship.jp
また、参考に、若手エンジニア向けの育成をやっているHPも紹介しておく。
”脳”力を鍛える
エンジニアは、どうやって能力を伸ばしていくべきか?
エンジニアの能力は、そもそも何なのだろう?
技術を伸ばすということは、専門性を伸ばすこと、つまり知識や経験によって他の人の知らないことや出来ないことを出来るようになることかもしれない。
だから、仕事上の経験がものをいう。
いい仕事に巡り合えるかどうかは、エンジニアにとってとても重要なことだ。
でも、私は思う。
エンジニアが技術者としてだけでなく、会社内で影響力を持って大きな仕事をしていくためには、”脳”の力を鍛える必要があるのだ。
抽象化力
わかりやすいのは、”アイデア発想力”。
これは、経験も必要だが経験だけでは育たない。
アイデア発想には、アイデアを引き出すための情報、データベースが必要だ。
大きなデータベースを脳内に構築するためには、たくさんの経験や学習が必要かもしれない。
しかし、このデータベースからアイデアを創り出す力は、「抽象化力」と「アナロジー力」だと思う。
対処すべき課題を、近視眼的にだけ見ていてはいい解決策は見つけられない。
見つけたとしても、他の人たちのアイデアと対して違いが出ないことが多くなる。
対処すべき課題を大きな視点、高い視点から見る力は、「抽象化力」という脳力で言い換えられる。
福嶋隆史さん著の「本当の国語力が驚くほど伸びる本」の中で、国語力は、「言い換える力」、「くらべる力」と「たどる力」と述べられている。
この3つの力で論理思考力が鍛えられるということなのだが、この3つの中で「言い換える力」はまさに「抽象化力」である。
みかん、ぶどう、バナナは、つまり「果物」だ。
救急車、消防車、パトカーは、つまり「緊急自動車」であり、さらに抽象度を上げると「車」ということになる。
自分たちは、「鉄道事業」をやっていると考える人たちは、鉄道事業しかできない。
しかし、今行っているのは鉄道事業であっても、自分たちは、「輸送事業全般」をやっていると考えると、鉄道インフラの強みを生かした様々な輸送事業に拡大することができる。
そして、論理思考力、抽象化力は鍛えることができる。
私がクライアントに教えているのは、TOC(制約の理論)で使うクラウドの作成だ。
企業の中にあるたくさんの”問題”を正確に客観的に掴むためのツールなのだが、まず、問題点を捉える。次に問題を起こしている具体的な人の行動は何かを捉える。
さらに、その人がその行動を起こす目的を捉える。
TOCの考え方は、企業活動の中で、すべての人は悪いことをしようと思って問題を起こしているのではなく、一つの企業方針の下で、その方針に沿った複数の評価基準(人の行動を決める、あるいは行動結果を評価する)があり、この複数の評価基準同士が対立関係、つまりジレンマのような形になっているときに問題が顕在化するという考え方をするのだが、この対立関係を明確にするのがクラウドを作成することになる。
つまり、企業の方針(一番高い抽象度)、評価基準(方針より一段下の抽象度)、そして問題を引き起こす具体的行動(優勝度が最低)の3段階で問題を捉えていく訓練法だ。
これを繰り返し練習することで、企業内の問題だけでなく、世の中で起こっていること全般を抽象度をコントロールしながら見る力がついてくることになる。
「抽象力」トレーニングは、エンジニアだけでなく、ビジネスマン全般の基礎力アップに効果的だと思う。
エンジニアは、さらに抽象力を使って、アイデア発想する力を養って行く必要がある。
ダイソンのサイクロン式掃除機のアイデアが、製材所のおがくずを集める巨大な集塵機から得たものだというのをご存じだろうか。
大ヒット商品のアイデアは、基本原理をゼロから作ったのではなく、よその領域にあったアイデアをそのまま転用しただけなのだ。
これを可能にするのが「抽象化力」+「アナロジー力」だ。
普段から、取り組んでいる課題を抽象度を揚げて捉えておくことで、よその領域(この情報がデータベース)のアイデアを使えるのではないか(アナロジー、類似性)、と考えることにつなげていくわけだ。
本質思考力
これは、物事の本質を見抜く力のことだ。
これも鍛えることが可能だと思っている。
私は、この力のことを「質問力」だとも思っている。
こんな経験はないか。
仕事の区切りがついて、報告書をしたためて上司に報告に行くと、自信満々で行ったのにあれこれと指摘されてボコボコにされて、たくさんの宿題をもらって帰ってくる。
上司は人のあらさがしをしてればいいのだから楽だよな、なんて恨み節も出てきそうだが、よくよく考えると上司の指摘はすべて正しかった。
自分のことは自分でよく見えないのかもしれない。
思い込みも入り、自分の仕事に疑問を持つのはたやすいことではない。
それでも、ここに「なぜなぜ」疑問を持つように習慣づけることは、とても強い力になるはずだ。
多くのことに疑問を持たないということは、言い換えると興味を持っていないのかもしれない。
本当に興味を持っていないのであれば、それは技術者としては致命的かもしれない。
しかし、興味は失っていないけど、人に聞くことが出来なくなっている。聞くことが恥ずかしい、ということが重なって、疑問を放置する癖がついてしまったのであれば、修復できるかもしれない。
私の指導方法は、製品の因果関係マップを書かせることだ。
製品の顧客から見た価値変数と、設計のための変数を因果関係で結んでいく。
製品を何年も設計してきたエンジニアに、私が質問をしながら因果関係マップを作っていこうとすると、エンジニアが私の質問の多くに答えられない、つまり知らない、ということが起こる。
自分の無知さ、突っ込み不足を実感してもらい、次に自分自身で因果関係マップを作るようにすると、自然と「なぜなぜ」習慣が出来ていく。
質問力は、物事の本質を見ようとすることを習慣化させ、やがて本質力を高めていくことになる。
そして、自分が上の立場になることの意味を実感できるようになるはずだ。
記憶力
実は、この記憶力ばかりは鍛えられないだろうと、つい最近まで思っていた。
「年を取ると覚えが悪くて。」
ということを何度も口にしてきた。
しかし、アクティブ・ブレイン協会の主催する記憶力強化セミナー(3日間)に参加して、その考えが一変することになる。
60才を過ぎた私でも、100個以上のなんの脈略もない単語を、ごく簡単に覚えてしまうことができるのだ。
セミナー一日目が終わった後には、100個の単語を約1時間で自分の脳にインプットすることができ、しかも数日後でもそれをはっきり覚えていることを実感した。
基本、イメージを使った記憶法なのだが、自分は左脳人間で、右脳を使ったイメージ記憶は自分には出来ないだろうと思っていたのだが、単に脳の使い方を知らなかっただけだと認識できるようになった。
脳は、大きな可能性を持っていると改めて実感した次第だ。
3日間のセミナーの最後には、講師が1時間かけてスピーチした20項目の内容を、キーポイントを自分の脳にイメージでインプットし、その後、自分で咀嚼した10分間のスピーチを作り、パワーポイントもメモを資料も全くない状態で、10分のスピーチを1項目も漏らさずに実行できることも実感した。
さらに、これはおまけかもしれないが、3日間のセミナーの結果、円周率を235桁覚えることもできてしまった。
円周率覚えてどうするの?という声も聞こえてきそうだが、自分にこんなことができるようになるとは、驚きであった。
ここで言いたいのは、”脳”力は、エンジニアにとって、筋トレみたいなもので、これら頭の筋力を高めることは、身近な方法でできるし、やるべきだと思う。
私も、エンジニアの皆さんの脳力アップには協力できると思う。
”脳”力と知識、経験をバランスよく育てることを勧めたい。
組織改革と人事考課制度
多くの日本企業では、相対評価で人事考課を行っています。
利益を適切に分配するということと、社内競争によって人材育成を強化していく狙いがあるのかもしれませんが、本当に公平な評価になっているのか、企業内でもいろいろと議論になっているのではないでしょうか?
好き嫌いや、部門間での能力差、評価者の能力をどう管理するのかなど、現場では不満もあることだと思います。
また、この変化の激しい時代に、期初に目標を立てて、半時後あるいは一年後に成果を評価するやり方は、変化のスピードに追い付かないのではないかとの指摘もあり、特に欧米企業では、人事考課制度を見直す動きも出てきています。
さらに、私が一番大きな問題だと感じているのは、相対評価によって、社員の意識のかなり大きな部分が、社内競争に向いてしまうことだと思っています。
製造業にとって、国内だけでなく海外の競合や新規参入企業との競争は激しくなり、また、顧客の多様化、IT技術の進歩によって、製品やサービスも複雑化してきて、自社だけでは勝ちきれない時代になってアライアンスやオープンイノベーションなど外との関係強化が大事になってきています。
このような時代には、外に目を向け、外の競合と戦うことに専念し、社内では、これまで以上の密接な連携、コミュニケーションで、一枚岩になって外と接することが求められています。
一年以上前に、人事制度の問題点を指摘した私のコラムを紹介します。
さらに、問題の本質は、競合に勝つ組織をどうやって作るかということで、人事考課制度そのもの単体の問題ではないとの気づきを含めて、勝てる組織の作り方と、その強い組織を支える人事考課のあり方について提言したコラムが下記になります。
強い組織は、強い「個」を生み出し続け、「個」を生かすための「組織」であらねばなりません。
また、同時に、「個」は、組織を動かす起点となる活動をしなければなりません。
一人でも多くの組織を動かす「個」を作れるか、理想的には、全社員が組織を動かすような、そんな理想の組織が、夢の世界ではなく、現実的に現れ始めています。
トップがやらなければ何もできない、と考えずに、本当にあるべき開発組織の姿について、現場レベルでも大いに語り合う時ではないかと思っています。