製造業エンジニアの道

自分を伸ばし、会社を伸ばす自己革命

パラダイムシフトを先読みする

時代の流れは速い。

技術は日進月歩で進んで行く。

でも、その流れの中にいると、流れの速さに鈍感になってしまうのかもしれない。

 

20年前のワークスタイルやライフスタイルは、思い出そうとすれば思い出せなくもないが、実感として忘れてしまっていることが多い。

 

例えば、ワープロがまだ普及する前、あるいは出始めたころ、人々は文書をすべて手書きで書いていた。

会社の報告書もすべて手書きだ。

 

当時は当たり前のことで、ワープロが出始めたころは、ワープロでやったら返って時間が掛かるし、きっと流行らないんじゃないか、くらいに思っていた。

 

今、手書きで何かを書く機会はほとんどない。

 

電車に乗るとき、駅の入場のときに、定期券を駅員さんに見せて、目視でチェックを受けて入場したし、切符は駅員さんが鋏を入れて入場した。

 

降りるときは、定期の場合は再び目視チェックで、切符は駅員さんに渡して駅を出るしくみだった。

 

駅員さんのチェックは、人間のチェックなので不正を見逃すこともあった。

そして、20年前には、キセルという不正が横行していた。

 

A駅からB駅へという比較的長い区間を定期で通勤、通学するとき、A駅と隣駅間の定期と、B駅と隣駅間の定期券を持ち、つまり間を中抜きして、定期券の総額を安くするという不正だ。

 

キセルという喫煙用の器具が、口元と、たばこを差し込む部分のみに金具を使う、つまり、入り口と出口にのみ金を使い、間は使わないということで、このような不正をキセルと呼ぶことになったのだ。

 

自動改札の導入で、駅員さんの目視チェックがなくなり、切符や定期も電子式になって、入場記録がないと出場できなくなって、電車での不正はほぼ不可能になった。

もちろん、自動改札や電子化によって、われわれも便利に鉄道やバスなどを利用できるようになった。

 

でも考えてみると、いつの間にかキセルつまり不正乗車がすっかり排除されたわけだ。

 

技術というのは、やみくもに進化しているのではない。

基礎技術や要素技術は別として、それらを応用技術として製品にしていく段階で、世の中の進化を支えて、われわれのライフスタイル、ワークスタイルを変革してきている。

 

ニーズに合わせた技術開発、製品開発と言われるが、私は”ニーズ”という言葉は適切でないように思っている。

 

確かに”必要性”があるから、新しい製品や考え方が受け入れられて、世の中が変わっていくのだが、この変革には、なにかもっと必然的な重力というか、エネルギーが働いているように思う。

 

顧客という言い方でもいいし、社会全体を顧客と捉えれば社会なのかもしれないが、顧客や社会が進化したいという強い欲求があって、それが、顧客や社会が明示的に気づいていないことがたくさんあるはずなのだ。

 

人間は思い込みをたくさん抱えている。

今の状態を続けることが楽なので、ある意味、変化を嫌う部分もある。

なので、現状にたくさんの不満があっても、それを何とかしたいとはあまり言わない。

不満や現状の不具合を、自分なりに工夫して回避することで、今の状態を受け入れている。

 

ワープロの事例のように、最初はみんな半信半疑で様子を見ている。

それが、アーリーアダプターと言われる先駆け者、一種の新しもの好きによって使われ始め、それが口コミによって広まり、徐々に使ってない方がマイナーになり始めると、加速度的に広まってデファクトになっていくのだ。

 

駅の自動改札も、もちろん技術的に磁気書き込み、読み取りの技術や、フェリカの発明などによって、便利なシステムが実用化されていった。

 

技術者サイドから言うと、してやったりではないが、便利な世の中を作るために侵食をも忘れて自分たちの想いを達成したということになる。

これは間違いではないし、開発者たちの並々ならぬ想いは心から称賛するに価するものだが、この変革の成功は、開発者の想いだけでは結実しないはずだ。

 

顧客や社会の進化への欲求、進化を促す重力とのマッチングがあったはずだ。

 

ワープロを考えてみる。

 

文字を書きたい、から文字を早くたくさん書きたい。

文字を書いて、それを他人に伝達したい。

文字を書いて保存したい。

 

文字を書く、という一つの行動の周りには、関連する行動が数珠つなぎのように繋がっている。

この一連の行動、ストーリーの中に、顧客の不満や知らず知らずに我慢したり、自分で工夫したりしていることが含まれている。

 

顧客は解決手段を知らない。

そこにワープロなる製品が提案される。

同時に、パソコンが現れ、ハードディスクに代表される記憶装置がムーアの法則とともに進化し、インターネットが普及してきて、

早くたくさん書く。

それを伝達する。

それを保存する。

それらの一連の行動を包括的に実現する世界に少しずつ世の中全体が変化していくわけだ。

 

ここには、技術の進歩と、顧客の進化への欲求重力とのマッチングが明らかに存在する。

 

パラダイムシフトとは、こういうことなのだと思う。

 

さて、次のパラダイムは何だろうか。

ひとつ明確に変わりつつあるのは、ショッピングだ。

Eコマースへのシフト、リアル店舗とEコマースの融合など、インターネットによるショッピング革命は現実に進みつつある。

 

そして、ショッピングの変化で、スーパーマーケットに注目してみたい。

電車の不正と同じく、今、スーパーマーケットでは、万引きの被害との闘いがある。

月に一度くらいの割で、テレビでもスーパーの万引き問題を取り上げている。

 

中でも熟年の人たちの万引きは、見ていて何かやりきれなさを感じる。

 

10年以内には、万引きがこの世の中からなくなると私は考えている。もちろん、電子決済やRFIDなどの技術の進歩が背景にあるのだが、何よりも顧客や社会が、その進化を強く求めていて、その変化への強い重力が働いているからだ。

 

イノベーションは偶然の産物だという人がいる。

きっとこれまでの多くの偉大な発明の中で、技術の進化としては成功していても、世の中に受け入れられなかったものがたくさんあるはずだ。

 

成功したものも、世の中に受け入れたこと自体は偶然だったものも多い。

 

パラダイムシフトを先読みするということは、顧客や社会が進化したいと願う重力を読むことだ。

それは、顧客の口から語られることはない。

 

顧客がどんな思い込みをしているか。

顧客が、一連の行動、つまりストーリーの中で、どんな我慢や工夫をしているか、そこに進化を願う重力が存在するはずだ。

 

それを技術者が見つけることを強く期待したい。