”脳”力を鍛える
エンジニアは、どうやって能力を伸ばしていくべきか?
エンジニアの能力は、そもそも何なのだろう?
技術を伸ばすということは、専門性を伸ばすこと、つまり知識や経験によって他の人の知らないことや出来ないことを出来るようになることかもしれない。
だから、仕事上の経験がものをいう。
いい仕事に巡り合えるかどうかは、エンジニアにとってとても重要なことだ。
でも、私は思う。
エンジニアが技術者としてだけでなく、会社内で影響力を持って大きな仕事をしていくためには、”脳”の力を鍛える必要があるのだ。
抽象化力
わかりやすいのは、”アイデア発想力”。
これは、経験も必要だが経験だけでは育たない。
アイデア発想には、アイデアを引き出すための情報、データベースが必要だ。
大きなデータベースを脳内に構築するためには、たくさんの経験や学習が必要かもしれない。
しかし、このデータベースからアイデアを創り出す力は、「抽象化力」と「アナロジー力」だと思う。
対処すべき課題を、近視眼的にだけ見ていてはいい解決策は見つけられない。
見つけたとしても、他の人たちのアイデアと対して違いが出ないことが多くなる。
対処すべき課題を大きな視点、高い視点から見る力は、「抽象化力」という脳力で言い換えられる。
福嶋隆史さん著の「本当の国語力が驚くほど伸びる本」の中で、国語力は、「言い換える力」、「くらべる力」と「たどる力」と述べられている。
この3つの力で論理思考力が鍛えられるということなのだが、この3つの中で「言い換える力」はまさに「抽象化力」である。
みかん、ぶどう、バナナは、つまり「果物」だ。
救急車、消防車、パトカーは、つまり「緊急自動車」であり、さらに抽象度を上げると「車」ということになる。
自分たちは、「鉄道事業」をやっていると考える人たちは、鉄道事業しかできない。
しかし、今行っているのは鉄道事業であっても、自分たちは、「輸送事業全般」をやっていると考えると、鉄道インフラの強みを生かした様々な輸送事業に拡大することができる。
そして、論理思考力、抽象化力は鍛えることができる。
私がクライアントに教えているのは、TOC(制約の理論)で使うクラウドの作成だ。
企業の中にあるたくさんの”問題”を正確に客観的に掴むためのツールなのだが、まず、問題点を捉える。次に問題を起こしている具体的な人の行動は何かを捉える。
さらに、その人がその行動を起こす目的を捉える。
TOCの考え方は、企業活動の中で、すべての人は悪いことをしようと思って問題を起こしているのではなく、一つの企業方針の下で、その方針に沿った複数の評価基準(人の行動を決める、あるいは行動結果を評価する)があり、この複数の評価基準同士が対立関係、つまりジレンマのような形になっているときに問題が顕在化するという考え方をするのだが、この対立関係を明確にするのがクラウドを作成することになる。
つまり、企業の方針(一番高い抽象度)、評価基準(方針より一段下の抽象度)、そして問題を引き起こす具体的行動(優勝度が最低)の3段階で問題を捉えていく訓練法だ。
これを繰り返し練習することで、企業内の問題だけでなく、世の中で起こっていること全般を抽象度をコントロールしながら見る力がついてくることになる。
「抽象力」トレーニングは、エンジニアだけでなく、ビジネスマン全般の基礎力アップに効果的だと思う。
エンジニアは、さらに抽象力を使って、アイデア発想する力を養って行く必要がある。
ダイソンのサイクロン式掃除機のアイデアが、製材所のおがくずを集める巨大な集塵機から得たものだというのをご存じだろうか。
大ヒット商品のアイデアは、基本原理をゼロから作ったのではなく、よその領域にあったアイデアをそのまま転用しただけなのだ。
これを可能にするのが「抽象化力」+「アナロジー力」だ。
普段から、取り組んでいる課題を抽象度を揚げて捉えておくことで、よその領域(この情報がデータベース)のアイデアを使えるのではないか(アナロジー、類似性)、と考えることにつなげていくわけだ。
本質思考力
これは、物事の本質を見抜く力のことだ。
これも鍛えることが可能だと思っている。
私は、この力のことを「質問力」だとも思っている。
こんな経験はないか。
仕事の区切りがついて、報告書をしたためて上司に報告に行くと、自信満々で行ったのにあれこれと指摘されてボコボコにされて、たくさんの宿題をもらって帰ってくる。
上司は人のあらさがしをしてればいいのだから楽だよな、なんて恨み節も出てきそうだが、よくよく考えると上司の指摘はすべて正しかった。
自分のことは自分でよく見えないのかもしれない。
思い込みも入り、自分の仕事に疑問を持つのはたやすいことではない。
それでも、ここに「なぜなぜ」疑問を持つように習慣づけることは、とても強い力になるはずだ。
多くのことに疑問を持たないということは、言い換えると興味を持っていないのかもしれない。
本当に興味を持っていないのであれば、それは技術者としては致命的かもしれない。
しかし、興味は失っていないけど、人に聞くことが出来なくなっている。聞くことが恥ずかしい、ということが重なって、疑問を放置する癖がついてしまったのであれば、修復できるかもしれない。
私の指導方法は、製品の因果関係マップを書かせることだ。
製品の顧客から見た価値変数と、設計のための変数を因果関係で結んでいく。
製品を何年も設計してきたエンジニアに、私が質問をしながら因果関係マップを作っていこうとすると、エンジニアが私の質問の多くに答えられない、つまり知らない、ということが起こる。
自分の無知さ、突っ込み不足を実感してもらい、次に自分自身で因果関係マップを作るようにすると、自然と「なぜなぜ」習慣が出来ていく。
質問力は、物事の本質を見ようとすることを習慣化させ、やがて本質力を高めていくことになる。
そして、自分が上の立場になることの意味を実感できるようになるはずだ。
記憶力
実は、この記憶力ばかりは鍛えられないだろうと、つい最近まで思っていた。
「年を取ると覚えが悪くて。」
ということを何度も口にしてきた。
しかし、アクティブ・ブレイン協会の主催する記憶力強化セミナー(3日間)に参加して、その考えが一変することになる。
60才を過ぎた私でも、100個以上のなんの脈略もない単語を、ごく簡単に覚えてしまうことができるのだ。
セミナー一日目が終わった後には、100個の単語を約1時間で自分の脳にインプットすることができ、しかも数日後でもそれをはっきり覚えていることを実感した。
基本、イメージを使った記憶法なのだが、自分は左脳人間で、右脳を使ったイメージ記憶は自分には出来ないだろうと思っていたのだが、単に脳の使い方を知らなかっただけだと認識できるようになった。
脳は、大きな可能性を持っていると改めて実感した次第だ。
3日間のセミナーの最後には、講師が1時間かけてスピーチした20項目の内容を、キーポイントを自分の脳にイメージでインプットし、その後、自分で咀嚼した10分間のスピーチを作り、パワーポイントもメモを資料も全くない状態で、10分のスピーチを1項目も漏らさずに実行できることも実感した。
さらに、これはおまけかもしれないが、3日間のセミナーの結果、円周率を235桁覚えることもできてしまった。
円周率覚えてどうするの?という声も聞こえてきそうだが、自分にこんなことができるようになるとは、驚きであった。
ここで言いたいのは、”脳”力は、エンジニアにとって、筋トレみたいなもので、これら頭の筋力を高めることは、身近な方法でできるし、やるべきだと思う。
私も、エンジニアの皆さんの脳力アップには協力できると思う。
”脳”力と知識、経験をバランスよく育てることを勧めたい。